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スタッフブログ

ロマンス、古今アジア。

 職場の懇親会でフィリピンが話題になり・・・芋づる式に最近読んだ小説を三編ご紹介。私見を連ねるのは興醒ましになりかねず、文庫本カバーの解説文と中身ちょっと拝見スタイルで。まずは話題のフィリピンから。

■「マリア・プロジェクト」(楡周平)
(コピー拝見、カバーから)
胎児の卵巣には巨万の富が眠っている・・・フィリピン・マニラ近郊、熱帯樹林に囲まれた研究施設で人類史を覆す驚愕のプロジェクトが進行していた。
胎児の卵子を使い、聖母マリアのように処女をも懐妊させる「マリア・プロジェクト」。生命の創出を意のままに操り臓器移植にも利用しようというのだ。
神を冒涜するその所業に一人の日本人が立ち向かう。
(中身拝見、えぃやぁ抜き書き)
「雇われのガードマンがどんな奴らかは分からないが、命を捨ててまで連中を護ろうなんて根性がそいつらにあるとは思えない。戦いで一番大切なのは、命を捨てても惜しくはないと思えるものを持っているかどうかだ」
オランドの言葉が胸に響いた。命を捨てても惜しくないもの、それが自分にあるだろうか。瀬島は考えた。答えはすぐに見つかった。
ある!。俺と諒子の血を引き継いだという細胞。それを無事奪回できるなら自分の命を引き替えてもいい。未来永劫、諒子とは結ばれない運命にあることは分かっている。だが、凍結保存されている卵子を救い出すことができるなら、それはやがて二人の愛の証を引き継いだ生命となって、この世に生き続けることになるだろう。それは諒子の願いでもあるはずだ。そのためなら俺は一命を賭しても惜しくない。
「分かった。やろう」瀬島はきっぱりと言い放った・・・・

■「ジャスミン」(辻原登)
(コピー拝見、カバーから)
父の失踪の謎を求めて降り立った上海で、運命の女と出会う。女は中国政府に追われる身。
「女と良心の呵責を両腕に抱き、秘密をもって愚かな時代を生きる」と嘯(うそぶ)いた父をなぞるかのように、危険な恋の扉が開かれる。
逃避行の挙句の別れと再会。甘美にして大胆不敵なロマンスは、国を越え政治に逆らって、最も美しいラストへ。
(中身拝見、えぃやぁ抜き書き)
・・・スープを抱えて店を出ると、雨がぽつりと来た。歩道で露天の果物売りが、芒果(マングオ)、芒果!と声を張り上げている。
彬彦がマンゴーを二個手にしたとき、雨はさらにぽつりぽつりときた。タクシーを帰してしまったことを悔やんでもあとの祭りだ。
・・・顔を空に向ける。落ちてくる雨粒のひとつひとつが見える。濡れたっていいな、と思い直す。上海の夏の雨だ。何故か懐かしい。
父はメトロポール・ホテルとハミルトン・ホテルのあいだのロータリーを濡れながら十五歩で渡ったそうだ。おれは、ゆっくり、目の前にそびえる上海大厦の十五階にいる女のところへ銀くらげのスープと程よく熟れたマンゴーを運んでゆく。
そうだ、こんなうっとりするような雨に濡れるために、おれは生きてきたし、生きているのだ。

 

■「翔べ麒麟」(再び、辻原登)
(コピー拝見、カバーから)
奈良随一の剣の腕をかわれ遣唐使の護衛士に任ぜられた<藤原真幸>。
16歳で唐に渡り、望郷の念を抱えつつも今や大唐帝国の高官として帝国の命運を握る朝衡こと<阿倍仲麻呂>、53歳。
絢爛たる唐の都・長安で出会った二人を軸に運命の歯車が回りだす…。
沈みゆく帝国の都を舞台に繰り広げられる陰謀と友情、恋と剣。
(中身拝見、えぃやぁ抜き書き)
月がのぼったので、海が匂った。
彼は大きく息を吸いこんだ。胸の中に豊かな香りがみちあふれた。三十七年前にたどりついたのもこの海岸だ。十六歳だった。
あのとき、ここにいて、いまも、ここにいる。彼方には故国がある。しかし、その故国の前には確実に広大な海がある。
「もう一度、青年のように生きなければならない」と彼はつぶやいた。
<あまのはら ふりさけみれば 春日なる 笠の山に いでし月かも>
・・・・しらべはのびのびとしていて、どこかしらおおどかで、言葉のひとつひとつにうるおいがあり、悲しみというより、詠んだ人の、胸ふくらむようなあこがれが伝わってきはしないだろうか。恋の気配すらある……。