ここから本文です

スタッフブログ

お肌の探求w

資生堂主幹研究員の傅田光洋(でんだみつひろ)博士は、皮膚研究のトップランナーです。ひとのお肌(皮膚)を「第三の脳」として捉え、「皮膚が感じ考える仕組み」の解明に挑戦しています。触覚を司る神経の密度はたかだか1ミリのオーダーなのに、職人さんはその1/1000のミクロンオーダー、素人の我々でも数十ミクロンを識別できます(髪の毛の太さは100ミクロンもありませんが我々の指先はリアルに1本を感じ取れますよね)。それは、表皮(10-20ミクロンの厚さの角層の下にある厚さ60-200ミクロンの層)を構成するケラチノサイト細胞(10ミクロンくらいの大きさ)ひとつひとつが、環境センサー(温度、湿度、圧力、浸透圧)であり、免疫センサーであり、あたかも神経細胞のように情報を交換する機能を持っていたからでした。ここで、傅田さんは、TRPV4というイオンチャンネル分子が圧力センサーとして表皮に存在するという大発見をしたのでした(Denda 2007)。

しかし、そうした細胞やイオンチャネルの働きが、どのような仕組みで「触覚」のような巨視的現象を引き起こすことにつながっていくかは大きな謎でした。その解明に乗り出してくれたのが、北大数理科学の長山教授でした。長山先生は傅田さんに「簡単なモデルで説明できるんじゃないですか」とこともなげに言って、傅田さんたちが精密な実験を積み重ねて得たデータを基に、①ケラチノサイト細胞の中には複数のカルシウムイオン貯蔵庫がある、②細胞には隣の細胞と直接情報交換できる通路がある、③また、いったん細胞の外を経て間接的に情報を伝える通路がある、というモデル設計で表皮の挙動を明快に説明してくれたそうです。傅田さんはもともと熱力学(つまり巨視的な系の性質を明らかにする学問)の研究者だったので、その解明の鮮やかさが身に沁みて理解できたようです(これはまさに無秩序から秩序を生み出す自己組織化の「開放系熱力学」に通じる世界ですね)。

そうして、いま、傅田さんと長山さんはツートップとなって、CREST/JSTの研究プロジェクトを推進しています。ナノレベルの研究が明らかにした生体分子や細胞の働きを、我々の実世界感覚に繋がる巨視的レベルの現象として捉え直すには、やはり「数学の手法」や「熱力学の概念」が大きく役立っているようです。学問の垣根を越えた研究の素晴らしさがここにあると、たいへん感銘しました。

傅田さんは、たくさんの一般図書を執筆しています。写真で紹介しておきましょう。

左から1冊目、ひとつ飛んで、3冊目と4冊目。(右の神経学者ダマシオの分厚い二冊については、僕は僕で「情動と感情を哲学的に解明したスピノザ」に注目して読んでいた本だったのですが、これらが傅田さんにも大きなインスピレーションを与えていたという話は、今になって、なるほどと納得したことでした)

なんと言ってもオススメは、一歩前に出ている黄色カバーの「第三の脳」です。中だるみはあるものの、最初の1/3と終わりの1/4の部分は目からウロコが落ちます。