ここから本文です

スタッフブログ

九月の雨

久しぶりに太田裕美の歌をYouTubeで聴いた。「九月の雨」。

離れ離れの男女の対話を歌いあげて彼女の右に出るシンガーは今もいない、と僕は思う。この歌自体はモノローグ仕立てだけれども、視線はピタリと失われた恋人に向けられている。未練と言われても仕方のない失恋の戸惑いと当てのない彷徨が、秋雨のリズムを哀しみの鼓動としてリフレインされる・・・・・・

 と、不意に、しかも意図的に、一呼吸以上も伴奏を追い越して:

 「季節に褪せない心があれば人はどんなに幸せかしら・・・」

 3rd movementの冒頭だ。声量のない彼女にはおそらく精一杯の絶唱だろう。曲は、すぐに元の調子に戻るのだが、もう、この一瞬で、未練は決意に転移している。どんな女性の心にも秘められている清潔な直向きさが感傷を払いのけて、一人で明日に乗り出していく・・・・心を褪せさせてはいけない「季節」とは、僕らの(私たちの)ささやかな「人生」のことなのだ。

  「さらばシベリア鉄道」で歌った男心と、「九月の雨」の女心は(両者の心の質は男女間の大きな溝を象徴して鋭く断絶しているけれど、それでも)、冷えた空気の中で熱く響き合うようだ。