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スタッフブログ

国際リニアコライダー(ILC)

写真は大盛況だった2/18(月)夕刻からの講演会の様子。場所は渡辺通の電気ビルの大ホール。われわれ九州先端研も後援しました(事務局の九経調さん、本当にお疲れさまでした)。
http://www.kerc.or.jp/seminar/2013/01/218ilc.html

特に前半は立ち見も満杯で、藤本順平先生の話を一度聴いている小職はスペースを譲って暫しロビーストになったくらい。後半の経済効果の話(九大の高田仁先生)は是非聞きたかったので、会場奥の壁に背をつけて拝聴しました。

さて何を書こう?ああ、そうだ、講演後の質問タイムで印象的だった一コマをご紹介しましょう。30分間の質疑応答の最後を締めくくった質問者は、明るくポライトそうな若い女性。回答者はKEK(つくば高エネ研)の藤本先生。

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Q:ILCという素晴らしい設備を使って得られるものが私たちの生活にどう役だってくれるのでしょうか?

A:はい、私がお答えします。

今ここで具体的な例を挙げてお答えすることはできません。でも、私は楽観しています。
なぜなら、人間は法則を発見すれば、必ず工夫を凝らして、課題を解決したり新しい発明をするからです。
人類が生まれて今日までずっとそうでした。人は重力の法則を知れば直ぐにどのようにしたら空を飛べるかを考えます。
その証拠にCERNではWorld Wide Webやグリッドコンピューティングやタッチパネルや抗体医薬など数々のイノベーションが生まれました。
だから今、ILCがどんな夢の技術を生み出すかを私はあなたに具体例にお話しすることはできませんが、少しも心配はしていないのです。
答えになったでしょうか?

A:よくわかりました。ありがとうございました。

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誰もが一番知りたい真正面からの正直な質問と、人類の知の力の大きさを信じて疑わない科学者らしい考え方と謙虚で自信に満ちた姿勢。まさに記念碑的講演会にふさわしいやりとりでした。

僕が昨年の春ころからILCに関心をもって以来、何冊かの素粒子物理や宇宙論の本を読みました。そこでビックリしたのは若い研究者たちの説明のうまさです。本当に舌を巻きました。
よくマスコミが誤解を招きかねない例え話でわかりやすさ優先の説明をしますが、そうしたものとは次元の違う真面目さと丁寧さに心を打たれました。その特質は、藤本先生始めKEKキャラバンの研究者のみなさんや九大の川越先生にも脈々としています。

ですから、新しい本が書店に並ぶと、ついつい手に取ってしまう幸せな数か月を過ごすことができました。最近手にした大栗博司博士の「強い力と弱い力」もそんな一冊です。
この本は素粒子物理学の進展をたどる形で量子論の世界を照らしてくれます。
相対論がほとんどアインシュタイン一人で作り上げられたのに対して、量子論はたくさんの個性的な研究者の成果が集積されて出来上がってきたすばらしい大系でで、今も刻々と築き挙げられています。
読んでいて誇らしかったのは、湯川先生や南部先生の影響力の大きさです。ここでは特に感銘を受けた南部陽一郎先生の言葉を転記してみます。

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物理学の基本法則は多くの対称性を持っているのに、現実世界は何故これほど複雑なのか?

これを理解するための鍵が、対称性の自発的破れの原理です。

基本法則は単純でも、世界は退屈ではない。なんと理想的な組み合わせではありませんか。

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どうです、気持ちいいでしょう!

自信に溢れ明るくドライなのに、どこか暖かく励ましてくれるような感じが類稀な雰囲気となって、まるで理想の父親に触れるような喜びを与えてくれます。最終行は、言い換えれば、この宇宙の仕組みを指して「なんと素晴らしい世界だろう!(What a Wonderful World)」と言っているわけで、その説得力として前半の南部理論の醍醐味が堂々と提示さているのです。

これはもうサイエンティフィックな福音と言えるかもしれないですね。ノーベル賞がどうのこうのではなく南部先生と一緒に賞を貰えることが嬉しくてたまらないといった益川さんの真意が今にして良くわかるような気がします。

そして、先のQ&Aで藤本先生が語ってくれた「法則を明らかにすること」の素晴らしさに改めて気付かされるのでした。