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プロジェクト
エネルギー自立分散

ステークホルダーの結集

ステークホルダーの知の結集

「産・学・官・公・民」それぞれの立場と課題

本調査では、「自然エネルギーの自立分散システムの実現に向けた技術集積」の最も効力のある形として(自然エネルギーベースで駆動される)「資源循環型コンビナート」を地域規模で実現していくシナリオを提案している。

実現に至るために必須の合意形成の対象は、「産・学・官・公・民」の属性を持つ複数のステークホルダーたちである。

 まずは、「産・学・官・公・民」それぞれの特性と関連性を概観してみる。

下表のトップ行は、各属性における「あり方」(ポリシー)、主たる「知」の所在、その「知」が自身のパートナーやユーザー等の外部からどのような制約の眼で見られているか(「知」の外部境界条件)、それぞれの存立の上で同時に満たすことの難しい相反するスタンス(行動上の二律背反)、属性間に特徴的に現れている関連性、さらに、より広く関連性を見渡して全体として欠けている属性・より強く意識しなければならない関係性などに関するポイント(「公」の意味合い)などについてまとめている。

この中で「エネルギー自立分散システム型・資源循環型のコンビナート実現」に関して各ステークホルダーが連携していくためには、2つの論点がある。

ひとつは、それぞれの「知の外部境界条件」を拠り所として、それぞれの「あり方」部分(「知の所在」を含む)が連携構造全体の中で一定のチャレンジ要素のうちに満たされ、「二律背反」部分に前向きな妥協点が見出さる可能性をもっていなければならない。

例えば、「産」として参画する企業が、コンビナート化によって環境対策やエネルギー最小化や雇用の確保などの各者間「共通項(Commons)」的副次効果が「結合の経済」として、独占でないにもかかわらず各者の「利益の追求」に結果的に反しない場合などである。この考え方は旧来の石油化学コンビナートにおいても鉄則であったが、今回は特に「環境対策とエネルギー最小化」の局面でコンビナート化の意味合いが強調されている。この点に関しては、後段で詳しく説明する。

二つ目は、表の右半分の「属性間の関係性」と「公の意味合い」の部分で顕在化している「公」の役割の顕在化である。「公」とは、具体的には、市町村役場、地域の公益法人や非営利団体等である。ステークホルダーの「間」をつなぐ彼らこそが「結合の効用」を最大化していくエンジンとなる。表の中には、少なくとも四つの「間」がある。内二つは、既に働きが的確に表されている「官と民の間の公」であり、「公の意味合い」の列に示される通り「産と学の間の公」であり、この二つについては、環境都市として再生した北九州市における市役所の役割に顕著な例をみることができる。また、「産と学の間の公」としては、北九州市の外郭団体である「公益財団法人北九州産業学術推進機構(FAIS)」の継続的な産学連携活動が目覚しい。

三つ目は、「産学」と「官民」の間で、産業と社会の発展の同期の流れを明確に作り出していく役割である。ここにこそ、実は、旧来のコンビナードにおける企業間利害調整だけでない重要な使命がある。この局面で一番大きな指針は「ビジョンの共有」であろう。それこそは、この調査報告の一番の論点であったことは言うまでもない。

そして、四つ目は、「属性内の各プレーヤー間」に関する。特に「産内の企業間」、「学内の研究者間」、「民内の生活単位間」に多くの課題がある。「産内の企業間」については、先に「共通項による結合の経済」で論じた部分が現状では代表的である。

「産-産」「学-学」および「産-学」の新たな連携の形

コンビナートという極めて高次元の事業連携において、産-学連携あるいは学-学連携を論ずることに不自然さを感じられるかもしれない。それは、従来の「石油化学コンビナート」や「半導体クラスター」と今回提案している「資源循環型コンビナート」の本質的な違いによる。前者はアンカー工場を頂点にして周辺産業が階層化される形で集積するのが基本形であった。この場合は、もともとサプライチェーン関係にあった関連企業群が「地理の壁」(主には物流コストの壁)を越えて集積することで生産効率を上げるメリットに加えて、相互の社会的利益(環境対応、原材料・エネルギーコストの最小化、雇用の確保等)を時には「資本の壁」「人の壁」を超えて実施できるという恩恵が集積の駆動力であった。

一方、今回の「資源循環型コンビナート」は、エネルギーの自立分散と資源循環を基本理念とする立場から、「資源自体の製造」「発電」「ものづくり」の連携そのものが最初にあって、その上で個々の生産活動のあり方が具体化されるという成立の仕方となっている。したがって、個々の事業の中はもとより個々の連携の中にこそイノベーションの種があり、コンビナートの構造そのものが産学連携活動の対象になっているのである。イノベーションの中身はビジョンドリブンのバックキャスティングによるデザイン思考的プロセスによって顕在化され、その中で開発指針や事業目標が示されて、複数の開発がコンカレントに進められ、最終的に「資源循環型コンビナート」構築の準備が整えられていくことになる。

ここにおいて、旧来のコンビナートにおける「地理の壁」「資本の壁」「人の壁」の乗り越えメリットは最初から計画に折り込まれてる形で構想される。

 循環型コンビナートにおける「公的機関」の役割の重要性

ここでは、「産・学・官・公・民」のステークホルダー間の合意形成のポイントとして、「公的機関」が強く関与する三つの場合について論ずる。場合分けは下表の通り、官-民間(公1)、産-学間(公2)、産学(~産業)-官民(~社会)(公3)間となっている。

まず、【公1】~【公3】それぞれの具体的イメージを膨らませてみよう。

【公1】価値創造空間としての地域 ~ 官の複雑性への対応、民のプロシューマ化を支援 

まず、「官」の補完機能の例から。関連する活動が北九州八幡東田で展開されている。第3章「前期活動内容」に掲載した図:1/3期調査ヒアリング内容中の<⑥北九州スマートコミュニティ推進機構>へのヒアリングで取材したNPO「里山を考える会」の活動である。

NPO「里山を考える会」は市民の生活目線でサステナブル・プロジェクトに大きく関わっている。例えば、環境都市コンセプトの広報のための国際会議「サステナブルデザイン国際会議」の事務局活動などを通じて地域の取り組みの価値を国際的にアピールしている。また、エリア・施設への見学者案内などにおいて見学先選定に関し行政が公正性の視点から機動的に動くことの難しさを補完する意図で見学窓口を代行している。行政業務の複雑性に対応した公共的組織のフレキシブルな活動の事例である。

http://www.satoyama.cn/kokosuma.html

 次に「民のプロシューマ化」について。フランスの社会学者:ロジェ・シューが提唱している「第4の価値」「第4次産業」のコンセプトは、米国のアルビン・トフラーの造語「プロシューマ」と並んで、生活者が商品・サービスの生産にも関わる新たな産業の形態を暗示している。例えば、資源循環型コンビナート周辺での環境ビジネス等に関して、第4次産業的な相互サービス生産に生活者が関わるようなビジネスチャンス創出の可能性は真剣に検討してみる価値がある。

【公2】イノベーションの意味を共有 ~ 学の目的意識の切り替え、産の機動性低下対策

 イノベーションの意味を産学で共有することによって、学(研究者)の目的意識の切り替えがなされる例について、先の「合意形成プログラムの構造設計」の章から、三つの図を再掲(①,②,③)して検証してみる。

①が「資源循環型コンビナート」の全体図、②がコンビナートの中核を担う「メタノール合成技術(二酸化炭素の水素還元装置)の産学連携による開発スキーム、③が②のスキームのバックキャスティングポリシーや同時進行性の発動の様子を示したものである。先の章でも述べた通り、「資源循環型コンビナート」は、旧来の石油化学コンビナートや半導体クラスターが既存の工場システムをレゴブロックのようにコンビナート化する手法であるのに対して、最初にコンビナートの設計ビジョンがあり、そこからのバックキャストによって各事業システム(発電、水素製造、メタノール製造、ものづくり、再発電など)が全体最適化思想のもとに内実をふくらませていく。それによって、コンビナートという極めて高次元の事業形態であるにもかかわらず、産学連携の研究開発がコンビナートのパフォーマンスを決定付ける重要な役割を担っている点に特徴がある。

 ここでは、②③の図左にある三つの研究開発チームの性格が「コンカレント型」でなければならない理由を通じて、「イノベーションの意味を共有によって学の目的意識の切り替えが起こる」必然性について説明する。

 ②③の図はシリアルな成果の受け渡しスキームで示されているが、実際は、「革新的電極の創製」(半導体工学とナノテクノロジーが駆使される)→「触媒機能の飛躍的向上」(計算機科学が決定的に重要な役割を担う)→「電気化学セルへの機能集約と装置化」(電極と触媒の融合が主テーマになるが反応場自体を最適化するため電極も触媒もこのステージにおいて最も大きな革新を求められる)というふうに要素ごとの独自の開発と全体最適化からフィードバックされる革新要求に随時応える開発スタイルになっている。その関係は下図(④)の通り。

これら3つの研究要素は、それぞれ単独に取り出せば、個々に独自な広がりと深みがあり、ひとつの学術研究分野を形成することさえ可能であろう。これに対して、「二酸化炭素の水素還元(6電子変換)によるメタノール合成の高効率化」という共通目標を設定することで、イノベーションの方向が定まりアプローチの選択肢が収斂される(最短で目標達成するバックキャストの効用)。目標がハイリスクなことに加え、自由な発想が制限される反面、複数人の参加による創発の醍醐味がもたらされる。また、図②③で示される企業や有識者からのフィードバックが技術の潜在能力をリアルタイムで開示してくれる機会が高まる。これらの効用を合わせると、専門性に閉じた研究・成果受け渡し方式の産学連携に対する今回のバックキャスト型のコンカレントな連携方式の革新的特性が明らかになる。

 次に、イノベーションの意味の共有が「産」にとっての「機動性低下対策」になるという側面について。旧来のコンビナートの場合、特定の商品市場の需要に高下があった場合、その変化に対応した生産調整がコンビナート全体の稼働状況に拘束されて、必ずしも迅速に実施できない(=機動性低下)という事態を覚悟しなければならなかった。一方、今回の循環型コンビナートは本来的にエネルギーや資源の平準化を担保するメカニズム(蓄電・蓄エネ等)が織り込まれていること、地域ビジネスの機会創出や先に述べた相互サービス型プロシューマビジネスの展開など、ビジネス構造にロバスト性をもたらす設計の余地が当初から勘案できる点で不確実性の経済に対応することができる。

 【公3】産業と社会を技術の身近さで繋ぐ ~ 産業と社会のビジョン共有

 これを想像力の次元で見事に可視化したのが、《Abduction as a Strategy》の章で「術の身近さ」を横軸に「システム規模」を縦軸にとって「地域エネルギーシステムの未来」を描いた堀尾容康の図であった。
http://www3.isit.or.jp/project8/abduction-as-a-strategy/

 また、先の「民のプロシューマ化」の視点は、我々一人ひとりの新しい産業との関わりの可能性を開いてくれる。もともと、我々は、雇用状態において生産者(産業サイド)であると同時に生活レベルでは消費者(社会サイド)であるけれども、一つの商品やサービスに関して、自分たちが本当にほしいものを自分たちの意志によって自分たちで作るというモードにはない。3Dプリンターやプログラミング能力が発揮できる「場」を地域に準備しなければならないだろう。

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