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プロジェクト
エネルギー自立分散

合意形成の試み

仮説としての産業プロセス

図は、メタノールを蓄積・輸送に優れた化学エネルギー物質として採用した場合の産業プロセスの想定図である。図に示す通り、産業プロセスのメインストリームは、自然エネルギーからの電力獲得からスタートして、大きく4段階となる。

  1. 風力・水力・太陽光等を由来とする自然エネルギーからの発電
  2. その電力を利用した水素製造
  3. 二酸化炭素の水素還元(ここでも自然由来の電力利用)によるメタノール(貯蔵・輸送が容易な化学エネルギー)の合成
  4. 発電・燃料・化成品原料としてメタノールを活用する産業・サービス 

このような構想を下にエネルギーの新たな創造と活用のシステムを社会導入するには、産業界と官民レベルでどのような合意形成が必要となるであろうか。 

ひとつの考え方は、25-50年先の長期ビジョン、それを実現するための10-15年先の中期グランドデザイン、3-5年規模のプロジェクト活動をバックキャスティングの視点からシームレスにつないで、どこに現状と目標のギャップがあるか、それをどのようなイノベーションによって克服すべきかに、産官学民の総力を結集して取り組みことである。 

ここでは、「メタノール社会」というひとつの目標で描かれるバックキャスト思考のロードマップを示しておこう。

「メタノール社会」に向けたバックキャストシナリオ

メタノールは、前章で述べた通り、電力の化学エネルギー貯蔵法として注目されている水素自体を含む多くの水素化材料のうち常温常圧で取り扱い性に優れる液体であって、その体積貯蔵密度、質量貯蔵密度は、米国エネルギー省の目標値を優にしのいでいる。しかも、大気中に存在する(あるいは大気中の140倍の濃度で溶けている海水中の)CO2(含・CO32-・HCO3-)を一方の原料とすることで、炭化水素系基礎化学の原料に利用できると同時に、自然エネルギーベースの水素化還元が実現すれば、カーボンニュートラルな循環型産業の基軸材料となるポテンシャルを秘めている。

既に、世界のメタノール生産(中東、アジア、北南米、ヨーロッパ、アフリカ等に約90拠点)は年間900億リットルで既に石油の1/50の量に達している。製造されるメタノールのほとんどは基礎化学原料として用いられ生産国の産業化を牽引している。但し現状の製造設備では、石炭・天然ガス・シェールガスが原料となっており、CO2水素化還元によるメタノール製造こそが実現すべき技術だと想定はしていても、カーボンニュートラルへの道のりは極めて遠い。 

ここで、我々の意思決定のプロセスをもう一度、整理しておこう。我々は、ビジョン・レベルでの合意形成、すなわち、目指すべき未来社会ビジョンを出発点として、それを支える産業の姿と基軸となるべきエネルギーシステムのあり方(これをグランド・デザインと呼ぶ)を明らかにし、それを可能とするイノベーションの実現(プロジェクト・レベル)のステップを踏んで、新しい未来社会を描こうとしている。従って、イノベーションのシナリオは、今まで通りの産業・社会のままで、エネルギー資源を石油からメタノールに変更するだけであってはならない。目標が定かでない仕様のまま多面的で、フォアキャストな技術開発方式が採用されれば、これまでと少しも変わらない。 

本来なら、目指すべき未来社会ビジョンから、それを支える産業やエネルギーに関わる技術のスペックが棚卸されなければならないが、それほど解像度の高い演繹的目標設定は、誰の手にも負えなそうにない。そこで、ここでも「アブダクション」を用いることを考えてみよう。個別の技術群のポテンシャルを踏まえて、あるべき未来(ビジョン)の鍵を握る近未来(グランド・デザイン)の構造を推し量っていくのだ。

先のバックキャスト図をもう一度注視してみると、25-50年先のビジョンの中身である50年後の「メタノール経済社会」のキーワードとして①「新・電力グリッドとの融合」、25年後の「メタノール産業経済」のキーワードとして②「再生可能エネルギーとの融合」および③「新・地域コンビナート」が挙げられている。 

①「新・電力グリッド」は、前章の「新たな社会システムと再生エネルギー」の図の中で、国家規模のエネルギーシステムを「身近な技術のリアリティ」のままに展望することを可能にするミッシング・リンク(今はまだ手にしていない連結子)であると議論した。その「新・電力グリッド」との融合のためにメタノール製造はどのような産業構造・社会システムの中で育てられなければならないかを推量することはできる。また、

②「再生可能エネルギーとの融合」では、自然エネルギーの積極活用や現在構築中の水素インフラを巻き取る方向性などが示唆される。

③「新・地域コンビナート」は、自然エネルギー創出部分、メタノールを使った発電や内燃装置としての設備やサービス形態、基礎化学原料としての利用の範囲と規模などが関わる。

これら①②③の「未来(50年後)⇒ 近未来(25年後)予測」は、未来予測の具現化に関して満たされるべき研究開発実用化スペックを呼び込む役割を果たしてくれそうである。また、本来、地産地消的性格の強い「自然エネルギー」が化学エネルギーに変換される場所も、製造された化学エネルギーが産業の原料や動力になる場所も「自立分散的」な「地域規模」であろうという絞込み実にくっきりと浮かび上がってくる。

 そういう文脈の中で、前節の産業連携の図を再掲して、見つめ直してみることは無駄ではないはずだ。

図の表題にある「コンビナート」は、旧来と未来では、その意味合いを大きく異なっている。旧来のコンビナートは、上流の材料を効率的に使って可能な限り多彩な製品群を効率よく生産する施設設計の最適化がもっとも重要であった。未来のコンビナートは、トータルなエネルギーシステムとしてカーボンニュートラルであること、生産される電力や燃料が基本的には地域で消費されることにある。物質とエネルギーの循環からシステムが設計されていく。

そこで、具体的プロジェクトベースの「個々の技術群」(Result相当)の目標設定をもう一度高度化していくプロセスが必要になるだろう。その何周かの議論のルーティンが、技術レベルの合意形成を企業間および産学官相互に進め、中長期の視野で投資的なプロジェクトを具体化していくガイドラインになるかもしれない。

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