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プロジェクト
エネルギー自立分散

合意形成プログラムの構造設計

前の章で、アブダクションのルーティンを何周か回してみて、技術目標設定を精緻化していく必要性に触れた。そこで、この章では、技術目標設定に関して、今回例示した「CO2水素還元メタノール合成」の妥当性、あるいは、他の目標の選択可能性を問題提起した上で、未来の「資源循環型コンビナート」実現に向けたバックキャスト的な合意形成プログラムの構造設計について考えてみたい。まずは、未来の「資源循環型コンビナート」の中核となる技術目標の吟味について。

 

化学エネルギー変換のターゲット材料について

Abduction as a Strategy>の章の「自然エネルギーの化学エネルギー変換法」の冒頭で、自然エネルギーの化学的エネルギー変換法に関し、候補物資として、水素、メチルシクロヘキサン、メタン、メタノール、アンモニア等を列挙した。その中で、メタノールを事例に挙げた根拠は、常温常圧で取り扱い性に優れ、貯蔵・輸送が容易で、燃料としても化成品原料としても利用でき新しいコンビナート形成の吸引力に優れるという特性にあった。
ただし、学術会・産業界からみると、CO2捕集の設備投資(窒素を使うアンモニアと比較して)、還元反応の難しさ(6電子還元系でありCO主成分のsynガスの場合が2電子還元系であることに比較して)などのリスクが指摘されている。特に燃料や化成品原料の用途には、フィッシャー・トロプシュ法(下記の化学反応式参照)を使えるCO(一酸化炭素)に魅力がある。

ドイツを中心とするヨーロッパ(ロシアを含む)は天然ガスインフラが充実しているので、メタンへの注目度が高い。その中で天然ガスに含まれるCO2をメタンに変えるニーズは確実にあるようだ。日本の場合は、産業界中心に、CO主成分のsynガスへの注目度が高いようだ。アンモニアに関しては、ハーバーボッシュ法に代わる低エネルギー合成法が確立されれば、原料となる窒素が大気中に十分あるメリットを活かすことができる。

 技術開発のアプローチとしては、どの合成法にも必須の触媒開発、反応の効率追求の面で電気化学の応用などが共通要素としてある。それらの技術の可能性を段階的に拓いていくというシナリオを描くと、メタン、メタノール、アンモニアなどに先立って、synガス原料となるCO(一酸化炭素)が最も現実的なターゲット材料になりうるとの見解も少なくない。しかし、現時点で、それが超企業的コンセンサスとして受け入れられているかは定かではない。 

上記のような議論を現実的に進めるためには、新しい産業の中核技術としての妥当性の吟味が必須であり、それには本調査において提案してきた「資源循環型コンビナートの実現」ビジョンとの整合を産学官公民の間の合意形成プロセスを踏まえながら実現していくことが理想だろう。

 

 バックキャスト型合意形成プログラム

上図は、本調査研究で提案する研究開発から実用化・事業化に至る技術開発の流れと、そのための目標設定およぶ開発スペックの提示を行うバックキャスティングの関係を示したものである。 

技術開発は、革新的な技術シーズを有用性と経済性のハードルを越えるプロセスで実用化まで継続させて行くことになる。この流れは、通常、いわいるデビルリバー、デスバレー、ダーウィニアンシーに阻まれ、これらを乗り越える仕組みや知恵が常に問われている。しかし、この流れに並行してバックキャスティングを通じた目標設定・仕様提示が明確になされていると、必要に応じて、材料部品装置の段階的進行において同時並行な(コンカレントな)開発スタイルを確信をもって進める助けとなる。図中の赤い破線で括られた部分を「コンカレント型」と明示している意味はそこにある。図左上からのフィッシュボーンは、個々の開発テーマやフェーズに応じて共同研究や技術移転がタイムリーに設定・実施される構造を示している。これらの判断をしやすくするのもバックキャストの役割だ。

 バックキャスティング効果をもたらす仕組みは、緑の破線で括られた部分の階層構造(左から右の各段階)によって効果的にもたらされるだろう。すなわち、実用化(装置化)、事業化(製品製造)、産業化・社会化(工場立地・コンビナート化・地域経済貢献)を担う各ステークホルダーが(開発の全体像を把握した上で)それぞれの視点から、開発目標や技術スペックを提示していく仕組みだ。

 先の図をもう少し詳しく描いてみたのが、次の図である。

次世代の自然エネルギー変換化学物質(燃料用途・化成品原料用途)が具体的に何に定まるかは明言せず、それらを製造するシステムが「革新的電気化学プロセス」であると想定した場合のスキームである。これが現時点ではフィクションに過ぎないことを忘れてはならないが、一つのイメージトレーニングとして、まずは未来の側から各ステージのプレーヤーのプロフィールを覗いてみることにしよう。

 

【社会変革チーム】VISION, after 50 years
社会学・経済学・政治学>都市工学・クラスター論>デザイン思考

 【産業立地化チーム】VISION, after 25 years
産業立地に関わる県や市の行政>企業誘致や中小企業支援に関わる地域団体・財団法人

【工学的完成チーム】GRAND DESIGN, after 10-15 years
プラントエンジニアリング>製造装置開発>部品・材料供給

【共同研究チーム】PROJECT, about 5 years
大学・公的研究機関・企業>基礎研究者・応用研究者・コーディネータ・調査員

 

ビジョン形成に強くかかわる二つのチーム:【社会変革チーム】と【産業立地化チーム】のポリシーは対照的である。【社会変革チーム】は、概念力がありカテゴリー分析的なクラスター論やアイデア創発ツールとしてのデザイン思考を駆使して規範(~Rule)形成を受け持つ。一方の【産業立地化チーム】は、現場主義から具体的立地問題(~Caseのための枠組み)に対して地域連携力を駆使してステークホルダーの合意形成のエンジンとなる。【社会変革チーム】が提供するデザイン思考などのツールはここにおいて具体的な形で機能させていく。

【工学的完成チーム】は、上記の二つのチームのコンセプトと、次の【共同研究チーム】の間に位置し、ビジョンを開発スペックに落とし込む作業をプラントエンジニアリング・装置開発の立場から進める。現状技術からの延長とビジョンとのギャップを可視化してイノベーションの具体的目標を定める作業が最も重要である。 

【共同研究チーム】こそ、イノベーションのエンジンだが、ここは課題解決チームとしての意識の高さが決定的に重要である。解決のために基礎に立ち返りながらあくまで課題解決のベクトルを失わないためのフォーメーション(チーム構成、個々の連携の仕組み)を意識的に形成する。そのための目標設定は【工学的完成チーム】との徹底的な議論が必要である。企業力が研究力を触発する可能性を最大限に活かさなければならない。

 以上のスキームはあくまで仮想的だが、役割を担わされたチーム・個々のプレーヤーそれぞれの判断はそれぞれが全体を俯瞰することで相互に調整しあいながら定まっていく様相にあること、すなわち、広範かつ長期的な合意形成がコンカレントに形成されていく可能性のあることが示唆される。これまでの研究開発実用化の流れの中で成果が段階的に受け渡されて行き自身がその当事者になるタイミングでしか全体に関われなかった状況とは大きく異なったスタイルになっている。

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