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プロジェクト
エネルギー自立分散

Abduction as a Strategy

 

我々は、前章「前期活動内容」の「調査ヒアリング活動2013.10-2014.01」および「産学官の枠組みを意識した情報収集」において、「自然エネルギー活用技術の多様性」と、「未来社会プラットフォーム」の兆しとも受け取ることのできる参照すべき幾つかの動向を捉えることができた。

前者を「Result」、後者を「Rule」とするならば、本調査研究の目指す「技術集約に関する合意形成」は、上図に構造化して示されているように、Abductionメソッドで導かれ得る「Case」と位置づけることができる。

この認識を踏まえると、今後の調査研究の方向性は、「Result」と「Rule」の親和性の見極めであり、より戦略的に言い換えれば、「Rule:未来社会プラットフォーム」からのバックキャストによって「Result:自然エネルギー活用技術」の発展の可能性を絞り込み、新たな社会基盤の構築のための「インテグレーションの方向性(=Case)」を浮き彫りにしていくことにほかならない。

そのためには、バックキャストの起点となる「Rule:未来社会プラットフォーム」を、より精密に描き出す必要がある。

ここで、九州大学炭素資源国際教育研究センターの堀尾容康教授が描く鳥瞰、すなわち、横軸にエネルギー技術の身近さ・縦軸に発電送電システムの規模をとって、国のシステムが、市民の生活や営みに、企業活動や地域の仕組みを通じて有機的に繋がり得ることを可視化した図に注視しよう。

この図のポイントは、①発送電分離によってグリッドシステムが具体的に機能し始めること、②企業の技術開発(エネルギー関連機器、断熱建材など)が国の規制に前向きに応える形で進むことにある。目指すべき未来に向けた新社会プラットフォームとは、国の指針と企業の商品提供力が、リニューアルしていくしかない市民生活を場として織りなされるタピストリーかもしれない。

堀尾教授の描く図をもう一つあげよう。この図を作成した堀尾教授の問題意識は、次の通りである。

「経済的に豊かになるにつれて、エネルギー消費がふえてきました。では、有限の地球において人類が豊かになるには日本は他国とどのような関係を結ぶべきでしょうか?」        

 日本の経済的豊かさの方向を示す弧は、外から大量にエネルギーを買い付けることから、自分たちの周りにあるエネルギーを活用し循環させることによって実現される。前図の横軸の定義は「技術の身近さ」であったが、その尺度を個々の市民が持つことが重要であることを、この未来図は語っている。

以上が「Rule:未来社会プラットフォーム」に関する一歩踏むこんだ考察である。ここで、もう一度、「Result:自然エネルギー活用技術」に立ち返ってみよう。特に注目すべきは、自然エネルギーを生活の主軸に据えるためには決して外すことができない技術、すなわち、蓄電もしくは蓄エネルギー技術である。蓄電池は電力を化学的エネルギー変換して蓄える。リチウムイオン電池、レドックスフロー電池などが候補に挙がっている。また、化学物質として装置から単離して蓄積・輸送できる物質として「水素」がある。

自然エネルギーの化学エネルギー変換法

 自然エネルギーの化学的エネルギー変換法として、候補に挙がっている物資を列挙してみよう。水素分子、メチルシクロヘキサン、メタン、メタノール、アンモニア等である。

図は、水素、メタノール、アンモニアを例として、化学的エネルギー貯蔵の内容をエンタルピー(熱含量)の変化として外観したものである。

図左上に示す通り、自然エネルギーとしては太陽光を例にあげている。太陽の光エネルギーから光触媒等を用いて直接的に水素を製造する方法(人工光合成と呼ばれる)、あるいは、いったん太陽光発電設備を経由して光エネルギーを電気エネルギーに変換した後、これを用いて水の電気分解等により水素を製造する。このように、自然エネルギーを水素分子内の化学エネルギーに変換することで、電気(蓄電には高価な二次電池が必要)では困難であった貯蔵や輸送が可能となる。図では、さらにもう一段の化学反応を経由して、メタノールやアンモニアへの変換が示されている。メタノールは二酸化炭素由来の炭素により化学産業用原料として使用されるとともに燃料への使用が可能である。大気の主成分である窒素を水素化して製造されるアンモニアは、化成品や肥料の原料として使用されるほか、脱水素技術が確立すれば窒素を水素キャリアと見立てることで燃料電池原料等としての活用が期待できる。メタンは、現行の天然ガスと同等のスキームで活用されることになる。

上図は、水素の各種貯蔵法(液化水素、圧縮水素、水素吸蔵合金、有機ケミカルハイドライドなど)と、メタノール・メタン・アンモニアに変換後の貯蔵法における貯蔵効率を示すものである。図中のメチルシクロヘキサン(MCH)は有機ケミカルハイドライド(下記化学式により水素添加と脱水素が実現)の代表例である。

MCHは米国エネルギー省(DOE)が掲げる水素貯蔵効率の目標値に近く、千代田加工等が実用化を進めている。そのMCHDOE目標値よりも高い貯蔵効率を有しているのが、メタノールである。一方、常温常圧で期待状態のメタンやアンモニアは、気体のままでは水素同様体積貯蔵密度が低いため、圧縮や液化の必要があることがわかる。 

以上のエネルギー蓄積技術を踏まえて、次章では、化学エネルギー物質として、「メタノール」を例題に、産官学民の合意形成のためのオープンインテグラルな技術集積の可能性について考察してみたい。

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