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JST CREST さきがけシンポジウム「22世紀創造のための数学」第1部

■集会名: JST CREST さきがけシンポジウム「22世紀創造のための数学」第1部
■開催日時: 2015年9月28日~9月29日
■場所:  富士ソフトアキバプラザ アキバホール
■主催: 科学技術振興機構(JST)
■URL: http://www.jst.go.jp/crest/math/ja/sympo/2015_sympo.html
■報告者: 安田研究員

会場の様子

会場の様子

概要

このJST CREST事業は2007年に発足し、今年度が最終年度となっている。その総決算として二部構成4日間のシンポジウムが開催された。数学者だけでなく、数学との境界領域の専門家による講演も編成されていた。報告者は第1部(2日間)のみを参加・聴講した。両日、参加者は100名ほどであった。日本語と英語の同時通訳サービスが利用可能であるなど力の入ったシンポジウムという印象であったが、同時通訳者は数学用語の翻訳に苦労していた。数学の通訳はやはり難しいようである。

日本語と英語の同時通訳

日本語と英語の同時通訳

以下、報告者が興味を持った講演をいくつか紹介する。

講演紹介

9月28日(月)の講演

1. 森重文(京都大学) 「私を数学に駆り立てるもの」
フィールズ賞受賞者の実体験に基づく講演。好奇心によりモチベートされる数学研究に何故国の支援が必要なのか?という疑問について、フィールズ賞を受賞することになったご自身の研究に関する体験を基にした講演であった。一つの理由としては純粋数学と応用数学は分離されていないということが挙げられ、例としては,金融工学で著名なブラック-ショールズ方程式に応用された伊東公式や,符号化理論や暗号に応用された代数幾何学などが挙げられた。

2. 鈴木良介(野村総合研究所) 「ビッグデータでよい社会を作る。」
ビッグデータの活用例をいくつか紹介された。走行するタイヤのデータを逐次送信し、それらを解析することで、除雪作業が必要となる地域の素早い特定に利用したり、回転ずし店で流れる寿司ネタのデータや時間帯などを解析することで、効率の良い寿司ネタの提供の仕方に利用することで食品廃棄率を圧縮する例などが紹介された。ビッグデータを活用することにより,保守的とみなされる応用領域への数学の成果が適用されることが期待されているとのことであった。なお、講演者の鈴木氏は研究集会CSS2015において特別講演スピーカーも務められた。

3. James D. Foley (ジョージア工科大) 「コンピュータグラフィックスのリアリズム
への挑戦」
コンピュータグラフィックスへで活用されている主な数学的技術として、モンテカルロ法とRadiocityがある。が,これらに関連するコンピュータグラフィクス上の問題が紹介された。smokeやhaze, clouds, shadowなどの実現には高度な技術が必要とされる。しかし視覚的な差が小さいのであれば、厳密な計算に処理時間やコストをかけるのはあまり意味がなく、観客の「目をだますこと」ができればよいとの主張から,上記特殊効果の簡便な実現方法が紹介された。また、これらの技術は「感情をだますこと」、例えば、高所恐怖症の克服などに応用可能であることが紹介された。

4. 杉原厚吉(明治大学) 「立体知覚モデルから探る映像文化の危うさ」
だまし絵の研究についての講演であり,4パターンのだまし絵が紹介された。だますポイントとしては直角の部分に直角でないものを使うところにタネがあり、拡張として2つの位置から見るとそれぞれ別のものに見えるだまし絵の研究が紹介された。後天的なものか不明としながらも、子供はだまし絵を見せても何が変なのか理解してくれないことから、後天的なものである可能性があるとのことであった。

 

9月29日(火)の講演

5. Tayfun E. Tezduyar (Rice Univ.) 「流体構造連成問題に対するspace-time法による新たな挑戦」
パラシュートを例に揚力に関する流体構造連成問題を解くための方法、space-time法が紹介された。また、イナゴの羽ばたきなどをモデルとしたMoving mesh法が紹介された。Interface tracking法などと併用するモデルを用いるとのことであった。

6. Theodra Mauro (カリフォルニア大学) 「カルシウム勾配の数理モデリング」
動植物の表皮の成長状態のモデルについての講演。動植物の表皮はいくつかの層に分かれており、カルシウムは表皮の一番下と一番上の層(上非)で重要な役割を果たす。上皮では細胞接着などのコントロールにカルシウム勾配が関わってくるとのことで、ダメージを受けた時などのカルシウム勾配の数理モデルがいくつか紹介された。

7. 田中求(ハイデルベルク大学・京都大学)「生命体の自発的な変形と運動モデル-人工細胞を超えて細胞・組織へ-」
急性骨髄性白血病治療の発達に貢献した、定量的な投薬量や投薬時を定めるのに役立つ研究についての講演。この新しい技術を用いることで、1日に150から200個の細胞に対して実験を行うことが可能となった(これまでは2,3個だった)とのことである。この試みは端緒についたばかりであるとのことで、今後の発展が期待される。

8. 小谷元子(東北大学)「データ社会の材料開発と数学の役割」
東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の活動報告。AIMRは異分野交流で新しい分野の開拓、具体的には材料化学に数学を持ち込み、統合し、新しい材料化学を始めることを目的としているとのことで、AIMRでのいくつかの成果が紹介された。AIMRにおける数学の役割は構造の記述、単純かつロバストな数理モデル、制度保証付き評価などとのことである。

9. 小林亮(広島大学)「環境を友とする制御法の創生」
制御理論における数学の応用についての講演。現在、ロボット工学では災害時のロボットの活用が求められているとのことで、これには階層制御、手応え制御、陰陽制御の3つの制御を実現する必要があるが、道環境を移動するロボットの開発は現状、閉塞状況となっている。というのも強力な計算資源に頼る今までやり方が限界にきているからであるとのことで、それゆえ数学の力が必要であるとの主張であった。